
- シカゴ市議会は2021年10月27日、アメリカ最大規模のベーシックインカム・プログラムを承認した。
- シカゴ市は、5000の低所得世帯に対し、1年間に渡って毎月500ドルを支給する。
- カリフォルニア州ストックトンで実施された同プログラムでは、参加者の失業率が低下し、精神的な健康状態も改善された。
シカゴは、市民に無条件で毎月現金を支給をする最新の都市になった。
シカゴ市議会は2021年10月27日、アメリカ史上最大規模のベーシックインカム(最低所得保障)の導入を可決した。このプログラムは、試験的に5000の低所得世帯に1年間、毎月500ドル(約5万7000円)を支給するものだ。参加者は無作為に選ばれるが、年収は3万5000ドル(約398万円)以下でなければならない。
同議会は2022年度の予算の一部として、約3200万ドル(約36億3000万円)をこのプログラムを通じて給付することを承認した。この資金はバイデン政権のアメリカン・レスキュー・プラン(American Rescue Plan)を通じてシカゴに割り当てられた新型コロナウイルスの救援金の20億ドル(約2270億円)から拠出される。
このプログラムは、新型コロナウイルスで大きな被害を受けた家庭の経済的負担を軽減することを主な目的としている。パンデミックが発生した最初の6カ月間で、何十万人ものシカゴ市民が職を失い、市民の約18%が連邦政府の貧困ライン以下で生活しているからだ。
シカゴ市のローリ・ライトフット(Lori Lightfoot)市長は、「大人になり、ぎりぎりの生活をする気持ちが分かった。困っているときは少しの収入でも助けになる」と2021年10月初めにツイッター(Twitter)に書き込んでいる。
ほかの何人かの民主党の市長たちも同様に、現金支給が都市の貧困に対処する有効な方法だと考えている。50以上の都市が「所得保障のための市長会議(Mayors for a Guaranteed Income)」に参加しており、今後、ベーシックインカムを試験的に行っていくことを宣言している。この団体の創設者は、カリフォルニア州ストックトンの元市長のマイケル・タブス(Michael Tubbs)で、彼は2019年にアメリカ初のベーシックインカム実験として、125人の住民に2年間に渡って毎月500ドルを支給するプログラムを実施した。
そして、他の都市も彼に続いている。ミネソタ州のセントポールでは2020年、ベーシックインカムの試験的導入が承認され、150の低所得世帯に最大18カ月間、毎月500ドルが支給されることになった。カリフォルニア州オークランドでは、低所得者層600世帯に毎月500ドルを18カ月間支給するベーシックインカム実験の参加者の募集を開始したところだ。カリフォルニア州コンプトンでは、すでに800人の住民が、すでに2年間月300ドル(約3万4000円)から600ドル(約6万8000円)の支給を受けている。またバージニア州のリッチモンドでは、18の勤労者世帯に毎月500ドルを支給している。
ベーシックインカムでは大規模な貧困に対処できないとの批判もある。
ベーシックインカムに反対する人々は、無条件に現金が支給されれば、仕事を見つける気持ちが低下したり、不必要な買い物をすると批判している。しかしながら、いくつかの研究では、現金給付は人々の就業を妨げるものではないことが示されている。
カリフォルニア州ストックトンのプログラムが2021年1月に終了した後、研究者たちは、受給者の失業率が下がり、フルタイムの雇用が増えていたことを発見した。また、受給者の幸福感が向上し、不安や抑うつ状態が減少したとも報告されている。彼らのほとんどは、ウォルマート(Walmart)や1ドルストアに行き、食料品や日用品などの生活必需品に給付金を使っていたという。
シカゴ市議会のギルバート・ヴィレガス(Gilbert Villegas)議員は、ワシントン・ポスト(Washington Post)の取材に対し、同市の試験的な取り組みでは最初の6カ月間、受給者が給付金をどのように使うかを監視することになっていると述べた。結果によっては、暖房費や食費など特定の用途のために支給することも考えられるという。
しかし、シカゴ市議会の議員の中にはこのプログラムを支持することをためらう者もいた。シカゴ市議会黒人議員連盟に所属する議員たちは、この資金を暴力防止や賠償プログラムに使った方がいいと主張していた。また、ニック・スポサート(Nick Sposato)議員は2021年10月初めに、ベーシックインカムは 「本質を考慮しない社会主義者の考えだ」とニュースメディアのポリティコ(Politico)に語っている。
ベーシックインカムを批判する人たちは、より大規模な現金給付プログラムの試験導入で得られた結果を指摘することもある。1982年からアラスカ州民に現金を給付している「アラスカ永久基金(Alaska Permanent Fund)」は、パートタイム労働者を17%増加させたことが2018年の報告書で明らかになった。しかし、現金給付は全体の雇用者数(仕事を持っている人の割合)には影響を与えなかった。
一方、フィンランドで実施されたベーシックインカムの試験導入では、給付金の受給者と非受給者の就業率はほぼ同じであることが分かった。しかし、2017年1月から2018年12月まで実施されたこのプログラムは、参加者が毎月の給付金を受け取るために、住宅手当や疾病補償などの標準的な条件付き給付金の一部を放棄しなければならないという複雑なものだった。
ベーシックインカムの推進者たちは、これが国家レベルの貧困を減らす可能性があると考えている。
マイケル・タブスは、「私はすべての試験的導入を非常に誇りに思っている。私はすでに必要なすべての証拠を持っている」と2021年3月にInsiderに語っている。
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