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「10年ほど前までは『学校の先生になりたい!』って言ってくれる子どもたちが結構いました。実際その子たちの多くは教員になっていますけど、ここ2,3年でそういう子たちがぐっと減ったなあという実感はあります」

そう話すのは、愛子さん(仮名)38歳だ。彼女は、四国にある公立高校で国語の教員をし続けている。

「10年前の子どもたちは『なんで学校の先生になりたいん?』って聞くと大抵、『だって楽しそうやん』って言っていました。

楽しいだけじゃなくて、大変なこともあるのよと話して聞かせてはいましたが、あの頃の子たちには、『先生』と言う仕事が、生徒とともに成長していく魅力的な仕事に見えていたのだと思います。

私自身は今も、教職というのは、子どもたちと一緒に成長して、新しい何かを見つけながら彼らの成長のお手伝いができる魅力的な仕事だと思っています。

ですから、ことあるごとに、この仕事についてよかったというような話をしていますが、生徒たちには『でも、ブラックなんでしょ。』と返されています」

そう言いながら愛子さんは苦笑いしている。

「メディアなんかでも、まあ、教員はブラックだって言われていますものね。でも私は、部活も楽しいんです。

サッカー観戦が趣味で大学生のころから高校サッカーの試合をテレビで見るのが年末年始の行事だったくらいなので、今、サッカー部の顧問が楽しくて、楽しくて」

愛子さんには3歳と5歳の息子がいるが、両親や義両親の協力を得ながら教員を続けている。

ご主人は会社員だが、比較的帰りが早いので、子どもの保育園への迎えなども行ってくれている。

「もちろん、みんなの手助けがあるから、私は仕事を楽しめているのだと思いますし、自分が恵まれた状況なのだとは思います。でも、教員という仕事に『ブラック』というイメージだけを貼り付けてしまうのはやめてほしいなあと思います」


愛子さんはそう言って言葉を切った。

「教員が高齢化しているというのも、子どもたちが教員に憧れない理由かもしれませんね。

20代の先生方がたくさんいた頃は、そういう先生たちに憧れた子どもたちがまた教員を目指すみたいな良い流れがあった気がします。

若い先生方は、若いからこその失敗ももちろんありましたけど、若いからこそ子どもたちに寄り添えたし、パワーがあるので子どもたちととことん向き合ってやることもできていました。

でも今は40代以上の教員が多くて、みんな山積みの仕事に疲れ果てている。いきいきしているとはいいがたいそんな先生たちを見ているとそりゃあ、高校生たちは先生になろう!とは思いませんよね」


そう話すのは信子さんだ。彼女は、教員を増やすために様々な企画を行っているが、なかなか上手くいかない。

先日ついに、日本若者協議会教育政策委員会の高校生たちが東京都庁で記者会見を開き、教員不足の解消のための予算確保などを要望した。

高校生たちは「子どもと先生と日本の未来のために早急に教員の労働環境を改善してほしい」と述べたそうだ。

ついにはもう、子どもたち自身が「教員不足」を感じ、公教育への危機感を抱いているという現状に、信子さんは頭を抱えている。


「教員が減ると、1人にのしかかってくる仕事の量が増えるので、先生たちがキラキラしておらず疲弊しきっているという状況になりやすい。

会社ではないので、学級運営や学校運営にかかわる事務的な仕事も先生たちがするのが当たり前と言う形になっていますけど、私はそろそろ、学校の先生の仕事は生徒にかかわるモノだけにして、それ以外はすべて外部に委託するという方法をとるべきではないかと思っています。

なのに、文科省の対策は、『採用試験の時期を早める』というものですから、正直に言ってガッカリです。周りの先生方も、『今がいかに危機的状況なのかを把握できていないのだろうなあ』と仰っていました。

もうすでに、生徒数やクラス数よりも教員の数が少ないせいで、1人の教員が2クラスの担任を掛け持ちしているという自治体もありますし、4月に担任になった教員が5月から休み始めて半年以上担任不在のままで生活を送っている高校生たちもいます。

結局しわ寄せはすべて、子どもたちに行くのですよ?何とかしなければって思いませんか?」

信子さんの口調はかなり熱を帯びている。

「楽しい仕事ですけどね、学校の先生。確かに大変だし、辛いこともあるけど、子どもたちが変わっていく様子や、青春真っただ中でキラキラしている姿を間近で見られて、しかも手助けできる仕事なんて、他にはありませんもの。

もっと余裕があればこうしてあげたいなあとか思うことはたくさんありますけど、そう思えること自体が幸せなことなんじゃないかなあと、私は思っているのですけど……」

そう話していた愛子さんの言葉には少しだけ希望を見出せたが、彼女のようなイメージを「教員」という職業に持っている人はとても少ない。

このままいつか、「先生」は学校からいなくなってしまうのだろうか。