子ども家庭庁は、2025年度から発達障害の可能性を見極めるために有効となる「5歳児健診」の普及に取り組むことが決まっている。2028年度までに5歳児検診の実施率を100%にするという目標を掲げた。
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発達障害児の数は年々急増しているが、この「5歳児健診」が普及すれば、これまで以上に増える可能性が高い。我が子が発達障害と診断名をつけられてしまうと、どうにかしようと考える親は多いという。
前編記事『「5歳児健診」義務化の動きに潜む《あぶない罠》…健康な子どもでも「発達障害」と診断されてしまうリスクも』から続く。
有効性と安全性に欠けた治療法を宣伝
「発達障害の子どもが増えている」という言説はすでに多くの人に広まっている。それに伴い、科学的根拠のない治療法を行っているクリニックもあるという。
著書に『子どもが「発達障害」と疑われたときに読む本』(講談社)があり、小児科医の成田奈緒子氏が解説する。
「一部のクリニックで発達障害に効果的と宣伝されているrTMS療法(脳に磁気刺激を与える治療法)を受診させる親もいますが、この治療法は今のところ有効性と安全性に問題があるため、注意が必要です」(成田氏、以下「」も)
子どもに対するrTMS療法については、以前から問題が指摘されていた。
2024年4月2日、日本児童青年精神医学会がホームページ上で、「神経発達症(発達障害)や精神疾患がある18歳未満の子どもに対するrTMSの有効性と安全性の証左は不十分」と声明を発表している。
にもかかわらず、10代の子どもにrTMS療法を勧めているクリニックは、決して珍しくなく、検索すれば簡単に確認できる。
特別支援学級の児童数が倍増
文部科学省のある調査によると、2006年時点で発達障害児の数は全国で7000人足らずだったものの、2020年にはその数が約14倍の9万人を超えたとされている。
自閉症やアスペルガー症候群、学習障害やADHDなどの発達障害を持つ子どもの就学先として、通常の小学校と特別支援学校がある。
障害の程度に応じて、どちらかに通うか決まる。比較的軽度の場合、通常学級もしくは小学校の中に設置される「特別支援学級」に通うことになる。
2022(令和4)年度の文部科学省の調査結果では、特別支援学級に在籍している児童生徒は約35万3400人(そのうち自閉症・情緒障害の生徒が約18万3000人)。義務教育課程の全児童生徒の3.7%を占めている。この数は年々増加しており、2012(平成24)年度と比較して、2倍以上となっている。
発達障害への理解が深まったとするポジティブな見解もある一方、トラブルを避けるため、安易に特別支援学級への転籍を促している可能性もある、というネガティブな見解を挙げる専門家もいる。
特別支援学級に通うことについて、成田氏はこう指摘する。
「通常学級に比べて、少人数の教室で静かな環境を与えたほうが学習効果も出やすいので、可能な限り特別支援学級に通うことはよい選択です。そのような環境で学校生活が落ち着けば、発達障害の症状もおさまり、1年後には通常学級に戻るケースも珍しくありません。
しかし、課題もあると成田氏が続ける。
「特別支援学校の教員は通常の教諭免許状に加えて、特別支援学校教諭免許状を取得する必要がありますが、特別支援学級の教員には必須ではありません。
なので、特別支援学級が増えると、現状ではその免許を持っている先生だけでは足りずに、通常学級の先生が特別支援学級の担任を務めるケースも多くなっています。そうなると、特別支援学級としてしっかり機能しておらず、生徒に対して十分なサポートがなされていないという問題も出てきています」
5歳児健診で発達障害の早期発見を促したとしても、発達障害児を支援できる体制を整える必要がある。
それ以前に、我が子が発達障害と診断されても、深刻に受け止めすぎないようにすることも重要ではないだろうか。