コメの次はコーヒー豆が歴史的高騰「コーヒー1杯1000円という時代が来ても不思議ではない」原因と今後の展望は?

ほっとひと息つきたいときの定番の飲み物といえば、コーヒーを思い浮かべる人が多いだろう。しかし近年、その原材料であるコーヒー豆の価格が高騰している。飲料メーカーやコンビニ、カフェチェーンでは相次いで値上げが行なわれ、個人経営の店も対応を迫られている状況だ。いったい何が起きているのだろうか。
【画像】コーヒー豆の値上がりで、値段が上がってしまう可能性のあるサービス
カフェ・飲料メーカー・コンビニ……各社で値上がりするコーヒー
コーヒー豆の先物価格は昨年から上昇を続け、2024年11月末にはアラビカ種が一時1ポンド(454グラム)当たり3.29ドル(約500円)超まで急騰し、歴史的な高値を記録した。この流れは今年に入っても止まらず、2025年2月には2024年1月と比べると約2.2倍の価格上昇となっている。
これを受け、カフェチェーン大手・ドトールコーヒーショップは、昨年12月にブレンドコーヒーやカフェ・ラテの値上げを実施。
また、コーヒーを中心に扱う飲料メーカー・UCC上島珈琲も、家庭用レギュラーコーヒーなど計41品を、今年5月1日出荷分から値上げすることを発表している。
レジカウンター横でコーヒーを販売するコンビニ各社も、相次いで値上げに踏み切っている。
昨年3月には、セブン-イレブンがホットとアイスコーヒーのRサイズを10円値上げし、ローソンとファミリーマートも、今年3月にコーヒーやカフェラテの価格を引き上げた。
これについて各社の広報担当者に取材したところ、セブン-イレブンは「原材料や容器・包材の価格高騰や物流コストの上昇等の影響が続く中、お客様にご満足いただける味・品質を今後もご提供するため、24年3月4日(月)より、価格の見直しをいたしました」と回答。
ローソンは「(価格改定は)3月上旬からです」として、理由については「コーヒー豆の価格高騰や、容器・包材コストなどの上昇が続いており、今後も状況が落ち着く見通しは立っておらず」と述べた。
ファミリーマートも「原材料高騰などの影響を踏まえ、今回の値上げとなりました。ファミマカフェ(ブレンドSの場合)直近の価格については、2022年9月に110円に値上げ、23年8月に120円に値上げ、今回(2025年3月3日)は130円となります」と回答しており、コーヒー豆の価格上昇が各コンビニチェーンの負担となっていることがうかがえる。
個人店への影響は深刻。“無料コーヒー”を提供している店舗の対応は?
コーヒー豆の高騰は大手メーカーやコンビニ各社にとっても大きな課題となっているが、規模の小さな店舗や個人経営の店にとっては、さらに深刻な影響を及ぼしていると考えられる。
そこで都内のカフェや喫茶店を訪ねたところ、店側からはさまざまな声が聞こえてきた。
「他店の知り合いからは、コーヒー豆の種類によっては価格が上がっていると聞いています。しかし、当店はまだ業者から値上げの通達を受けていないため、提供価格も据え置いています。
仮に仕入れ価格が上がったとしても、すぐに価格へ転嫁することはないと思います。というのも、ウチはもともと少し高めの価格設定にしているため、原材料費が多少上昇しても、まだ持ちこたえられるんですよ」(都内カフェ店主・30代男性)
しかし、同店主は「このままコーヒー豆の価格高騰が続けば、コーヒー1杯1000円という時代が来ても不思議ではない」とも指摘する。
一方、下町エリアにある個人経営の喫茶店では、昨今のコーヒー豆の急騰を受け、やむを得ず値上げに踏み切ったという。
「コーヒー豆の価格が上がる前にまとめて仕入れていましたが、昨年12月からコーヒーを50円値上げしました。あと、地味に痛いのはコーヒーゼリー。ウチはお食事を注文されたお客様に、食後のサービスとして小さなコーヒーゼリーを提供していて。これも自家製だから、コーヒー豆が値上がりすると困るんだけど、お客さんには喜んでほしいしねぇ……」(都内の純喫茶店員・50代女性)
こうした“サービス”の維持に苦慮しているのは、喫茶店だけではない。「たしかに厳しいですね」と苦笑しながら語るのは、東京・日本橋のベーカリー「室町ボンクール」本店の店主だ。
同店は日本橋と御徒町に2店舗を構え、どちらの店でも「パンを500円以上購入すると、コーヒー1杯を無料提供する」というサービスを時間限定で実施している。店主によると、このサービスは客から非常に好評で、来店客の実に8割ほどが利用しているそうだ。
昨今のコーヒー豆の高騰は、この大人気サービスにも影響を与えているという。
「ウチはずっとこのサービスを続けていて、500円という基準額も、今まで上げたことはありません。昨年末にコーヒー豆の価格が上がったときも、『このままで行こう』と決めました。
ただ、これ以上コーヒー豆の価格が上がるようであれば、考える必要が出てくるかもしれませんね。サービス自体は多くのお客様にご好評いただいているため、廃止は考えていませんが、基準額は上げなきゃいけなくなるかもしれません」(室町ボンクール本店・店主)
豆の品種を変更すればコストを抑えられるのではないかと尋ねると、飲食店ならではの素材へのこだわりがあるようだ。
「サービスとはいえ、豆にはこだわっていて、銀座のバリスタのコーヒー豆を使っています。この品種は、これまで一度も替えたことがないんですよ。昨年末、コーヒー豆の価格がグッと上がったときに替えることも考えましたが、『やはり味を落とすのはよくない』と判断しました」(同前)
コーヒーを扱う輸入企業は「高値はしばらく続く」と予想
規模や業種を問わず、各所に多大な影響を与えているコーヒー豆の高騰。それにしても、いったいなぜここまで跳ね上がっているのか。「コーヒー流通センター」を運営する株式会社セイコー珈琲に話を聞いた。
同社は、コーヒー生豆の輸入販売や委託焙煎加工を手掛け、全国の喫茶店や自家焙煎珈琲店をはじめ、ホテル、レストラン、百貨店、スーパーなど幅広い取引先を持つ。
商圏は日本国内のみならず、アジア、ヨーロッパ、中東にもわたり、社内にはブラジルコーヒーの公認品質鑑定士も在籍するという、まさにコーヒーのプロフェッショナル集団だ。
「昨年、ブラジルのコーヒー生産量が減少し、需給バランスが崩れ、消費量に対して生産量が不足すると言われ始めました。その後、10月になってブラジルで雨が降らず、干ばつの影響で2025年の生産量が前年よりもさらに減少するとの予測が複数の調査機関から報じられ、コーヒー相場が急騰する事態となりました」(株式会社セイコー珈琲)
気になる今後の見通しについて、同社は「世界的な異常気象の影響でコーヒーの生産量減少が続く中、コーヒー相場の高値は当面続くと見られている」と見解を示す。
また、解決策については「問題の解消には、来年以降、コーヒー生産大国であるブラジルやベトナムの生産量増加が待たれる状況です」と説明した。
日本は、2024年7月に発表されたICO〈国際コーヒー機関〉統計による国別の消費量(2023年)をみると、1位アメリカ、2位ブラジル、3位ドイツに次いで4位で、コーヒーの一大消費国となっているが、このまま現在の価格高騰が続くようであれば、気軽にコーヒーを飲める機会はなくなっていくかもしれない。