「真の恐怖」はこれから始まる、90日も待たずにトランプ大統領は終わり、株価は下落する

相変わらず、アメリカのトランプ政権は日替わり、いや1時間ごとに新しい動きをしているが、株価は以前よりは落ち着いてきた。今後もトランプ大統領は、いろいろな動きをするだろう。
「ホラー劇場」は終わったが「真の恐怖」はこれから
しかし、もう怖くない。なぜなら、株価の下落は一時的には止まったからである。
もちろん、それはトランプ大統領のやりたい放題が止まったからである。
いまや、トランプ大統領は言いわけばかりだ。「俺は何も変更していない、一貫している、柔軟なだけだ」、などと言い張り、強がりを言い続けるだけになり、株価を暴落させた関税などを1つずつ実質的に撤回している毎日だからだ。
今後も株価は、乱高下というよりは、少し大きめの上下動を繰り返すだろう。しかし「嵐の最悪期は去った」、というのが多くの株式投資家の見方だ。
それは、正しい。しかし、持続しない。これが続く、元に戻るというのは願望にすぎないことに気づかされるだろう。ホラー劇場は終わったが、静かな恐怖、真の恐怖はこれから開幕するからだ。
実体経済が落ち込み、世界的な株価の下落が続く
1 株価は戻り歩調になる。しかし、それは弱い。すぐに天井にあたり、その後は上下を繰り返すだけだろう。そして、その後、下落トレンドが再開する。
2 その理由は、実体経済が落ち込むからである。アメリカも世界も不況に陥るだろう。そして、その回復のメドは立たない。
3 金融政策がどうなろうとこの流れは止められない。アメリカの中央銀行であるFEDがどんな利下げをしようと、経済は戻らない。株価は一喜一憂し、乱高下が復活するだろうが、それは乱高下にすぎず、下落トレンドは続き、利下げしても不況が続くことに、投資家はパニックになり、さらなる下落となるだろう。
4 日本株も日本経済も、同様だろう。アメリカ市場、アメリカ経済の動きに、日本も世界も連動せざるをえない。
5 ドルはもちろん下落する。これまでが高すぎたのと、アメリカという国家に対する信認が低下するからだ。前者は短期の理由、後者は長期の理由である。
6 難しいのはアメリカ国債とドルである。1から5の予想は自信があるが、これは、自信はない。しかし、普通に考えれば、ドルの信認は低下し続けるから、アメリカ国債は、同国の金融政策により政策金利が低下しても、長期債の利回りは、それほどは下がらないのではないか。
政治や地政学の予想もしてみよう。
7 トランプ大統領の力は急激に低下していく。理由は、トランプ大統領自身がどんどん自信を失っていくからだ。強がりを言うたびに、金融市場も、ディールの相手たちも、国民も、そして何より同国の共和党議員が、トランプ大統領を軽蔑し、無視するようになっていくからだ。政権内部も崩壊し、離散していくだろう。
8 いわゆる西側の同盟は傷ついたまま、回復はしないだろう。アメリカの覇権が消滅するだけでなく、西側は分断し、西側でない国々、中国を長期的に利することになり、ロシアも短期的には寿命が延びるだろう。
9 アジアにおいては、地政学的にはむしろ短期的には平和になるだろう。中国は、長期的な大チャンスを捉えるために、短期的な争い、領土的な染み出てくるような拡張戦略はいったん停止し、台湾有事のリスクは短期的には大幅に低下するだろう。
このような見通しの下で、日本がとるべき動き、政策を提示しよう。
10 相互関税や自動車関税に対する譲歩の交渉は、急ぐべきではない。譲歩幅も小さくすべきであり、それが可能である。なぜなら、いまや困り焦っているのはアメリカであり、譲歩せざるを得ないのはトランプ大統領だからだ。
11 そのための手段として、アメリカと日本だけの二国間交渉にしない。欧州をはじめ、多くのアジア諸国を含めて、マルチ、つまり多国間交渉にするべきだ。
WTO(世界貿易機関)にアメリカの不正を訴え、WTOやそのほか、国際的な機関、枠組みの下で、議論、交渉すべきである。あるいはEUやそのほかの通商同盟を連携させ、アメリカ、というかトランプ政権を孤立させ、中道的共和党がトランプ大統領を支配するようなアメリカに変えさせるべきである。
12 少し細かい点を言えば、貿易赤字の減少や自動車、コメなど農産品などの個別品目の話は、実質的に譲らなくてよい。
トランプ大統領が「ますます終わり」のワケ
補足しよう。
と思ったのだが、ここで執筆を途中でいったん断絶してしまい(これがよくなかった)、再開しようとしたとき、トランプ大統領が赤沢亮正・経済財政担当大臣とアメリカとの交渉に出るとSNSに投稿したというニュースが入ってきてしまった。現在、赤沢・トランプ会談、その後の閣僚交渉が終わった直後だが(日本時間では17日朝)、これについてコメントすることにする。
トランプ大統領は、ますます終わりだ。
なぜ、トランプ大統領が突然表舞台に出てきたか。もちろん、相手の虚をついて、自分がペースを握り、会談自体もディールも支配するという意図だが、これは、逆効果だし、実際そうなった。
トランプ大統領が登場したのは、あせっているからであり、それを、欧州を含め、今後の交渉相手が全員見てしまった。そんな下手なディールをなぜトランプ大統領は、あせってやってしまったのか。それは、もはやトランプ大統領の立場が弱くなっているからである。
トランプ大統領の最大のモチベーションは、ディールを支配して、自分の支配力に陶酔してエクスタシーを感じることである。テレビのショーで、「you are fired!」(お前はクビだ!) と叫んで場を支配するのと同じである。ウクライナ・ロシア交渉でも、交渉を支配して言うことを聞かせようとしたが失敗して、嫌になって放り出した。
次は、関税を世界に吹っかけ、弱いものいじめをして支配しようとしたが、世界各国からも反発され、株式市場だけでなく、国債市場からも反発され、政権内部からも突き上げられ、これも投げ出した。もう支配できるディールは残っていないか。
「お人好しの日本」相手に1勝をたくらむトランプ大統領
そうだ、日本だ。お人好しで、すぐ譲歩してくる。日本で成果を挙げて、まず1勝して、ほかの国に「日本を見習え」と言ってやろう。関税でアメリカの消費市場から締め出してやるという武器はうまく機能しなかったが、まさに武器、アメリカの軍事力、軍事情報抜きでは、欧州も日本もやっていけまい。まず、日本と防衛力を材料に言うことを聞かせよう。そういうことだ。
ちなみに、なぜ関税かというと、議会とは関係なく大統領権限だけでできるからである(無理矢理だが)。関税で税収が増えるとも、製造業が復活できるとも思っていないだろう。議会がいらないから振り回しやすいだけである。だから関税が好きなのだ。本当はもっと大好きな減税は、国内議会の承認が必要だし、ほかの財政支出も同じである。
だから、製造業を復活させるために、相手を締め出すだけでは、国内産業が破綻するだけに終わる(中国やアジアを完全にサプライチェーンから閉め出したら、まったく何も生産できなくなるだけだから)。
製造業を復活させる政策、仕組みの準備、予算の議会通過だけでなく、アイデアも手間も時間もかかる。人材も足りない。うまくいくわけがないし、行くとも思っていない。だから、貿易赤字をまじめに減らす意図はないし、国内製造業復活もお題目だけだ。自動車産業のように、まだアメリカ国内に一部の海外企業の基盤があれば、その生産を少し増やすことはできるだろうが、しかし、それもほんのわずかだろう。サプライチェーンの再興には時間がかかるし、もはや不可能だからだ。
相互関税がどうなるかわからないのに、投資を実際に行う企業はほどんどなく、様子見だろう。生産も消費も停滞し、投資も起きない。壊滅的だ。ほかの産業では、10年かかっても無理だし、それをやる気もないし、不可能だろう。
赤沢大臣大手柄、90日も待たずトランプ大統領は終わる
トランプ大統領は、目先の手柄、勝利、ディールで相手をやりこめる快楽、それしか求めていない。
しかし、日本との交渉は、赤沢大臣の大手柄で、何も決めずに持ち帰った。そもそも決定権がないし、謙虚な人だから、トランプ大統領の挑発に乗りようがない。日本の総理は決断力がないから、言葉は踊っても、結局、大幅譲歩をトップダウンで決めることもできないから、90日ぎりぎりか、90日ではまとまらないだろう。
しかし、90日も待つ必要はない。アメリカの株式市場や債券市場から攻撃を受け、共和党内の雰囲気も日々変わっていき、日本との交渉であせっているトランプ大統領を観察した欧州は、強気に出てくるだろう。
トランプ大統領はますます焦り、どんどん譲歩してくるか、投げ出すか、やけくそになるか、どれかだろう。日本をはじめ、世界は全員様子見をし、ただ中国だけが、この大チャンスをものにするために、着々と外交を展開していくだろう。
本稿最終校正中に、トランプ大統領がジェローム・パウエルFRB議長を解任しようとしているというニュースが飛び込んできた。
パウエル議長は辞任要求には屈せず、むしろ心理的にはトランプ圧力で利下げ時期を早めたと思われないように行動するバイアスがかかり、利下げをさらに遅らせるだろう。
トランプ大統領は終わりだ。アメリカの終わりは早まる(本編はここで終了です。この後は、競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。